リアクションホイールとCMG|衛星姿勢アクチュエータ

はじめに

リアクションホイール(RW)CMG(コントロールモーメントジャイロ)は、衛星の姿勢制御システムにおける主要な姿勢制御アクチュエータだ。いずれも角運動量の保存則を利用して推進剤を消費せずにトルクを発生させる。RWは精密制御に適し中小型衛星で広く使われ、CMGは大トルクを発生できるため大型衛星や宇宙ステーションに採用される。


リアクションホイールの原理

角運動量交換

リアクションホイールはフライホイール(はずみ車)をモーターで回転させる装置だ。外部トルクがない系では角運動量が保存されるため、ホイールの回転速度を増加させると、衛星本体は反対方向に回転する。

パラメータ CubeSat用RW 中型衛星用RW 大型衛星用RW
角運動量 0.01〜0.1 Nms 1〜10 Nms 20〜100 Nms
最大トルク 0.001 Nm 0.1〜0.5 Nm 1〜5 Nm
質量 100〜300 g 2〜5 kg 10〜30 kg
回転数 ±6,000 rpm ±6,000 rpm ±4,000 rpm

4基冗長配置

3軸姿勢制御には最低3基のRWが必要だが、1基故障時のバックアップとして4基をピラミッド配置するのが標準だ。4基の回転軸が正四面体の各辺方向を向くように配置することで、任意の1基が故障しても3軸制御能力を維持できる。

Keplerケプラー宇宙望遠鏡は4基のRWのうち2基が故障し、2軸しか制御できなくなった。太陽輻射圧を3軸目の制御に利用する「K2ミッション」として運用を継続したが、本来のミッション性能からは大幅に制約された。この事例はRW冗長設計の重要性を象徴的に示している。


CMG(コントロールモーメントジャイロ)

原理とトルク増幅

CMGは高速回転するフライホイールの回転軸方向をジンバルで変更することで、ジャイロスコピック効果によるトルクを発生させる。入力(ジンバル回転)に比べて出力(衛星に与えるトルク)が桁違いに大きくなるトルク増幅効果がCMGの最大の特徴だ。

項目 リアクションホイール CMG(SGCMG)
トルク生成 ホイール加減速 ジンバル回転
最大トルク ホイールモーター出力に依存 ホイール角運動量×ジンバルレートに依存
トルク増幅 なし あり(10〜100倍)
制御の複雑さ 高(特異点回避が必要)
用途 中小型衛星 大型衛星・宇宙ステーション

特異点(ジンバルロック)問題

CMGクラスタの最大の技術課題は特異点(Singularity)だ。複数のCMGのジンバル角が特定の配置になると、ある軸方向のトルクが出せなくなる。この問題を回避するため、特異点回避ステアリングロジック(SRロジック、ヌルモーション法など)が研究されている。

ISSでは4基のCMGが搭載されており、各CMGのフライホイール角運動量は約4,760 Nmsだ。合計19,040 Nmsの角運動量容量で、ISSの巨大な機体の姿勢を制御している。


角運動量のアンローディング

外乱トルクと蓄積

軌道上の衛星は常に微小な外乱トルクを受ける。

  • 太陽輻射圧トルク: 太陽光の光圧が衛星の非対称な表面に作用
  • 大気抵抗トルク: LEOで残留大気が衛星表面に作用
  • 重力傾斜トルク: 衛星の慣性主軸と地心方向のずれにより発生
  • 磁気残留トルク: 衛星内部の残留磁気が地磁気と相互作用

これらの外乱をRW/CMGが吸収し続けると角運動量が蓄積し、飽和に至る。定期的なアンローディングが不可欠だ。

アンローディング手法

  • 磁気トルカ: LEO衛星で最も一般的。地磁気との相互作用でトルクを発生し、RWの蓄積角運動量を放出
  • スラスタ: GEO衛星やISS。推進剤を消費するが、任意の方向にトルクを発生可能
  • 重力傾斜: パッシブな重力傾斜安定を部分的に利用

技術的なポイント

基礎知識

  • 角運動量保存則: 外部トルクがなければ、系全体の角運動量は一定に保たれる。RW/CMGの動作原理
  • ジャイロスコピック効果: 高速回転体の回転軸を変更すると、入力と直交する方向にトルクが発生する
  • 特異点(Singularity): CMGクラスタが特定の方向のトルクを出せなくなる配置
  • 飽和(Saturation): RW/CMGの角運動量蓄積量が上限に達すること

応用例

  • ISS: CMG 4基(各4,760 Nms)。スラスタによるアンローディング
  • WorldView衛星: 大容量RW×4基。アジャイル撮影(迅速なターゲット切替)を実現
  • ケプラー宇宙望遠鏡: RW 4基中2基故障。K2ミッションで太陽輻射圧を活用した運用

まとめ

リアクションホイールとCMGは、推進剤を消費しない姿勢制御を実現する衛星の中核アクチュエータだ。RWは精密制御と簡素さで中小型衛星の標準であり、CMGはトルク増幅効果で大型衛星・宇宙ステーションの姿勢制御を担う。角運動量管理(蓄積と放出のバランス)は運用設計の要であり、磁気トルカや電気推進との協調が長寿命ミッションの鍵となる。フォーメーションフライングアジャイル衛星の高速マヌーバにも、高性能なRW/CMGが不可欠だ。


参考文献

  • Wie, B., “Space Vehicle Dynamics and Control”, 2nd Edition, AIAA, 2008. AIAA
  • NASA, “International Space Station Control Moment Gyroscopes”, NASA Official Site. NASA
  • Leve, F.A. et al., “Spacecraft Momentum Control Systems”, Springer, 2015. Springer

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