ロケットのターボポンプ技術|心臓部の設計と革新

はじめに

ターボポンプはロケットエンジンの心臓部だ。推進剤を数十気圧の高圧で燃焼室に送り込む役割を担い、その回転数は毎分2万〜10万回転に達する。ターボポンプの性能と信頼性がエンジン全体の性能上限を決定するといっても過言ではない。本記事では、ターボポンプの構成要素であるインデューサ、遠心ポンプ、タービンの設計原理から、最新のRaptorエンジンにおける革新までを解説する。


ターボポンプの構成

基本アーキテクチャ

ターボポンプはポンプ部タービン部が同軸に結合された高速回転機械だ。推進剤ごとに独立したターボポンプが設けられることが多く、燃料側(LOX/メタンの場合はメタンポンプ)と酸化剤側(LOXポンプ)でそれぞれ最適な回転数と流量を設計する。

コンポーネント 役割
インデューサ 軸流ポンプ。低圧の推進剤を吸い込み、圧力を少し上げてキャビテーションを防ぐ
メインポンプ(遠心型) 推進剤を必要な高圧まで昇圧する主要ポンプ
タービン 高温ガスで回転し、ポンプを駆動する動力源
シール 高圧流体の漏洩を防ぐ。回転軸周りの密封技術
ベアリング 高速回転する軸を支持。液体推進剤を潤滑に利用するケースも

インデューサの設計

インデューサはターボポンプ入口に配置される軸流ポンプで、メインポンプへの流入圧力を確保する。推進剤タンクの圧力は0.2〜0.5 MPa程度と低く、この低圧状態でポンプに流入する推進剤が気化(キャビテーション)しないよう、インデューサでNPSH(Net Positive Suction Head)を確保する。

インデューサの翼枚数は通常2〜4枚で、翼のスイープ角と先端隙間の設計がキャビテーション性能を左右する。高性能なインデューサは、吸込み圧が推進剤の飽和蒸気圧をわずか数十kPa上回るだけでも安定して動作する。


タービン駆動方式とエンジンサイクル

各サイクルとタービンの関係

タービンの駆動方式は液体ロケットエンジンのサイクル分類と直結する。

エンジンサイクル タービン駆動ガス タービン入口温度 代表例
ガスジェネレータ GGで燃焼した低温ガス 700〜900 K Merlin 1D, F-1
二段燃焼(酸化剤リッチ) 酸化剤リッチプリバーナ排気 500〜800 K RD-180, SSME
二段燃焼(燃料リッチ) 燃料リッチプリバーナ排気 800〜1,100 K SSME
フルフロー二段燃焼 両方のプリバーナ排気 各700〜900 K Raptor
エキスパンダ 再生冷却で気化した燃料 200〜400 K RL-10, LE-5B

フルフロー二段燃焼サイクルRaptorエンジン)では、酸化剤側と燃料側にそれぞれ独立したプリバーナとタービンを持ち、すべての推進剤がプリバーナを経由して高圧ガスとなり、タービンを駆動する。これにより各タービンの温度を下げつつ高い燃焼室圧力(300気圧以上)を実現している。

タービン翼の設計課題

タービン翼は高温・高圧・高回転の三重苦に晒される。SSME(RS-25)のタービン翼先端速度は700 m/s以上に達し、翼にかかる遠心応力は莫大だ。MAR-M246やInconel系のニッケル基超合金が使用され、単結晶鋳造技術や翼内冷却孔の設計が信頼性を左右する。


最新の技術動向

3Dプリントによる製造革命

SpaceXのSuperDracoエンジンでは、ターボポンプの一部部品を金属3Dプリント(レーザー粉末焼結法: LPBF)で製造している。複雑な内部冷却流路を一体成型できるため、従来の鋳造・溶接に比べて部品点数を大幅に削減し、製造リードタイムを短縮できる。

Rocketdyne(現Aerojet Rocketdyne)もRS-25のターボポンプ部品に3Dプリントを導入しており、コスト40%削減を達成したと報告されている。

電動ターボポンプ

小型ロケット向けに、タービン駆動ではなく電動モーターでポンプを回す電動ターボポンプ(ETP)の開発が進んでいる。Rocket LabのElectronロケットはバッテリー駆動のETPを世界で初めて実用化した。バッテリー重量の増加というデメリットはあるが、エンジンサイクルの簡素化と制御性の向上が利点だ。


技術的なポイント

基礎知識

  • NPSH(Net Positive Suction Head): ポンプ入口で確保すべき最低圧力余裕。不足するとキャビテーションが発生する
  • 比速度(Ns): ポンプの設計パラメータ。回転数・流量・揚程の関数で、ポンプ形式の選定指標
  • キャビテーション: 液体が低圧部で気化して気泡が生じる現象。ポンプ内壁を浸食し、性能低下と寿命短縮を引き起こす
  • 先端速度: タービンまたはポンプの翼先端の周速。材料の強度限界から上限が決まる

応用例

  • SSME/RS-25: 液水ターボポンプ回転数37,000 rpm。史上最高性能の液体ロケット用ターボポンプ
  • Raptor: フルフロー二段燃焼で酸化剤・燃料各独立タービン。300気圧超の燃焼室圧を実現
  • Electron(Rocket Lab): 電動ターボポンプの世界初実用化。バッテリー駆動による簡素化

まとめ

ターボポンプは液体ロケットエンジンの心臓部であり、インデューサのキャビテーション抑制タービン翼の耐熱設計高速回転軸のシール技術が性能と信頼性を決定する。Raptorエンジンのフルフロー二段燃焼は、ターボポンプ設計の到達点を更新し続けている。3Dプリント製造や電動ターボポンプといった革新が、次世代ロケットの低コスト化と高性能化を両立させる鍵となるだろう。


参考文献

  • Huzel, D.K. and Huang, D.H., “Modern Engineering for Design of Liquid-Propellant Rocket Engines”, AIAA Progress in Astronautics and Aeronautics, vol.147, 1992. AIAA
  • Sutton, G.P. and Biblarz, O., “Rocket Propulsion Elements”, 9th Edition, Wiley, 2017. Wiley
  • Rocket Lab, “Rutherford Engine”, Rocket Lab Official Site. Rocket Lab

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