SAR衛星の技術|合成開口レーダーで地表を透視する

はじめに

SAR(Synthetic Aperture Radar: 合成開口レーダー)は、衛星からマイクロ波を地表に照射し、反射波を受信して画像化するリモートセンシング技術だ。光学センサと異なり、昼夜を問わず、雲や雨を透過して地表を観測できる。災害監視、軍事偵察、地盤変動計測、氷河モニタリングなど幅広い分野で不可欠な技術であり、近年は小型SAR衛星コンステレーションによるリアルタイム監視が急速に進んでいる。


合成開口レーダーの原理

合成開口の仕組み

レーダーの分解能はアンテナの大きさに比例して向上する。しかし衛星搭載のアンテナサイズには限界がある。SARは衛星の軌道運動を利用し、飛行方向に沿った多数のパルスを合成処理することで、実際のアンテナサイズよりはるかに大きな仮想アンテナ(合成開口)を実現する。

たとえば全長10mのアンテナを搭載した衛星が、数km飛行する間のパルスをコヒーレント合成すれば、理論的には数km相当の巨大アンテナと等価な方位分解能を得られる。結果として、軌道高度500kmからでも1m級の空間分解能が達成可能だ。

主要パラメータ

パラメータ 説明
方位分解能 飛行方向の分解能。アンテナ長の半分に理論的に等しい
距離分解能 レーダービーム方向の分解能。パルス帯域幅で決まる
偏波 HH, VV, HV, VHの組み合わせ。目標の散乱特性を識別
入射角 レーダービームの地表への入射角。目標の見え方に影響
NESZ(ノイズ等価後方散乱係数) センサの感度指標。小さいほど微弱な反射も検出可能

観測モード

ストリップマップ・スポットライト・ScanSAR

モード 方位分解能 観測幅 用途
ストリップマップ 3〜10 m 30〜100 km 広域監視
スポットライト 0.5〜1 m 5〜15 km 高解像度観測
ScanSAR 10〜50 m 100〜500 km 超広域海洋監視
TOPSAR 5〜20 m 250 km Sentinel-1(広域・高品質)

スポットライトモードではアンテナビームを特定の地点に追従させ、長時間の合成開口を実現することで最高の分解能を得る。一方ScanSARはビームを複数の角度に切り替えて広い範囲をカバーする。


InSAR(干渉SAR)

地盤変動の検出

InSAR(Interferometric SAR)は、同一地点を異なる時期に観測した2枚のSAR画像の位相差から、地表の微小な変動を検出する技術だ。地震・火山活動・地下水汲上げ・鉱山の陥没などによる地盤の隆起・沈降をミリメートル精度で計測できる。

InSARの基本原理は、マイクロ波の往復経路差が位相差として現れることを利用する。2回の観測間に地表が数cmずれると、位相差として検出される。Sentinel-1は12日ごとの反復観測で世界全域のInSAR解析を可能にしている。


小型SAR衛星の台頭

ICEYE・Capella・QPS研究所

従来のSAR衛星は大型で高価(1基数百億円)だったが、2020年代に入って100kg級の小型SAR衛星が台頭した。

企業 衛星質量 分解能 コンステレーション
ICEYE(フィンランド) 約85 kg 0.25 m 30機以上運用中
Capella Space(米国) 約100 kg 0.3 m 10機以上運用中
QPS研究所(日本) 約100 kg 0.46 m 2機打上げ済み
Synspective(日本) 約100 kg 1〜3 m 4機打上げ済み

小型化のキーはフェーズドアレイアンテナの小型化商用電子部品の活用だ。ICEYEは直径3.2mの展開式メッシュアンテナを採用し、100kg未満の衛星で0.25m分解能を実現した。


技術的なポイント

基礎知識

  • 合成開口: 衛星の移動を利用してアンテナサイズを仮想的に拡大する手法
  • コヒーレント処理: パルスの振幅だけでなく位相情報も使って信号合成する処理
  • InSAR: 2枚のSAR画像の位相差から地表変動をミリメートル精度で検出
  • 偏波: 電磁波の振動方向。SAR偏波データから植生・水面・人工構造物を識別可能

応用例

  • Sentinel-1(ESA): Cバンド(5.4 GHz)。世界全域を12日周期で無償観測。InSAR解析の標準データ源
  • ICEYE: Xバンド。0.25m分解能の小型SAR。保険・災害・防衛分野で急成長
  • ALOS-2/だいち2号(JAXA): Lバンド(1.2 GHz)。森林透過能力が高く、地殻変動監視に活用

まとめ

SAR衛星は全天候・昼夜観測という光学センサにない強みで、地球観測の不可欠な手段となっている。合成開口の原理で衛星搭載アンテナの限界を超え、InSARでミリメートル精度の地表変動検出を実現した。ICEYEやCapellaに代表される小型SAR衛星コンステレーションは、観測頻度を飛躍的に高め、AIによる解析と組み合わせたリアルタイム地球監視の実現に近づいている。衛星搭載AIによるオンボードSAR画像処理も、今後の重要な技術方向だ。


参考文献

  • Moreira, A. et al., “A Tutorial on Synthetic Aperture Radar”, IEEE Geoscience and Remote Sensing Magazine, vol.1, no.1, 2013. IEEE
  • ESA, “Sentinel-1”, ESA Copernicus. ESA Sentinel-1
  • ICEYE, “SAR Satellite Constellation”, ICEYE Official Site. ICEYE

投稿日

カテゴリー:

投稿者:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です