はじめに
宇宙構造物のサイズはロケットのフェアリングで制約される。しかし将来の宇宙太陽光発電、大型望遠鏡、月面基地はフェアリングに収まるサイズでは不可能だ。「宇宙で造る」——軌道上での組立・製造と、月面でのレゴリス3Dプリンティングが、この制約を打破する。
軌道上での製造
ISS上の3Dプリンティング
ISSでは2014年にMade In Space社(現Redwire)のFDM(熱溶解積層)3Dプリンターが微小重力環境での造形に初めて成功した。現在は工具やスペアパーツのオンデマンド製造が実験的に行われている。
微小重力3Dプリンティングの課題は対流の欠如と表面張力の支配だ。溶融フィラメントの挙動が地上とは異なるため、プロセスの最適化が必要だ。
軌道上組立
大型構造物の軌道上組立も研究されている。NASAのOSAM-2(Archinaut One)はロボットアームと3Dプリンターを使い、軌道上で太陽電池パドルの支持構造を製造・組立する計画だ。打上げ時のサイズ制約なしに大面積の太陽電池を実現できる。
SpiderFab構想
Tethers Unlimited(現Firmamentum)のSpiderFabは、ロボットが軌道上でトラス構造を自動的に組み立てるコンセプトだ。アンテナ、太陽電池パドル、大型反射鏡などの展開構造を超えるサイズの構造物を軌道上で直接製造する。
月面3Dプリンティング
レゴリスを材料に
月面基地建設で最も有望な技術がレゴリス(月面の表土)を材料とした3Dプリンティングだ。地球から建材を輸送するコストは膨大であり、現地の材料を使うISRUが経済的に不可欠だ。
建設手法
| 手法 | 原理 | 研究主体 |
|---|---|---|
| バインダージェッティング | レゴリスに接着剤を噴射して固化 | ESA/D-Shape |
| マイクロ波焼結 | マイクロ波でレゴリスを溶融・焼結 | NASA、DLR |
| レーザー焼結 | レーザーでレゴリスを選択的に溶融 | ESA |
| 押出成形 | レゴリス混合セメントを押し出し積層 | Contour Crafting |
ESAとイタリアのD-Shape社はレゴリス模擬材を使用して建物構造の3Dプリンティング実証を行い、月面ドーム構造の実現可能性を示した。
放射線遮蔽
月面の3Dプリンティング建造物は宇宙放射線の遮蔽にも役立つ。レゴリスは約2〜3mの厚さがあれば銀河宇宙線を十分に遮蔽でき、居住モジュールをレゴリスで覆う設計が検討されている。
火星での建設
火星レゴリス
火星のレゴリス(火星土壌)も建材として利用が検討されている。NASAの3D-Printed Habitat Challengeは火星での自律ロボット建設コンテストで、複数のチームがレゴリス模擬材とポリマーの複合材料で居住構造を製造した。
火星には薄い大気があるため、月面と異なり気密構造の設計が若干異なるが、基本的な3Dプリンティング建設コンセプトは共通だ。
技術的なポイント
基礎知識
- FDM: 熱溶解積層。ISS上で実証された微小重力3Dプリンティングの基本方式
- レゴリス焼結: 月面の表土を熱や結合剤で固化して建材にする技術
- ISRU建設: 現地資源を利用した建設。地球からの輸送コストを削減
- Contour Crafting: 大型3Dプリンティングによる建築技術。月面建設への応用
応用例
- Redwire: ISS上でFDM 3Dプリンティングを実証。オンデマンド部品製造
- ESA/D-Shape: レゴリス模擬材で月面ドーム構造の3Dプリンティングを実証
- ICON: 地上で住宅の3Dプリンティングを商用化。NASAの月面建設にも参画
まとめ
宇宙での建設と3Dプリンティングは、フェアリングサイズの制約を超え、軌道上と月面に大型構造物を実現する技術だ。ISS上での微小重力3Dプリンティングが先行し、月面レゴリス建設の研究が本格化している。ISRUとの連携により、地球からの物資輸送を最小化した持続可能な宇宙拠点の建設が視野に入ってきた。
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