はじめに
LEO衛星は地球を約90分で周回するが、地上の1つの局と通信できるのは1パスあたり約10分程度だ。残りの80分はデータを送れない。この制約を解決するのがデータ中継衛星だ。GEO軌道に配置したデータ中継衛星がLEO衛星と地上を常時接続し、地球観測データやISSの通信をリアルタイムに中継する。
主要なデータ中継システム
NASA TDRS
TDRS(Tracking and Data Relay Satellite System)はNASAが運用する世界最初のデータ中継衛星システムだ。1983年のSTS-6で初号機が打上げられ、以来ISS、スペースシャトル、Hubble宇宙望遠鏡、各種LEO衛星の通信を支えてきた。
GEOに配置した複数のTDRS衛星が、LEOの衛星・宇宙船とS帯/Ku帯/Ka帯で通信し、ニューメキシコ州ホワイトサンズの地上局に中継する。これによりLEO衛星のデータ取得可視時間を85%以上に拡大した。
欧州EDRS
EDRS(European Data Relay System)はESAが運用するデータ中継衛星だ。レーザー光通信による高速データ中継が最大の特徴で、光衛星間リンク技術を実用化した先駆的システムだ。
| パラメータ | TDRS | EDRS |
|---|---|---|
| 運用機関 | NASA | ESA |
| 中継リンク | S/Ku/Ka帯電波 | レーザー光通信+Ka帯 |
| データレート | 最大300Mbps | 最大1.8Gbps(光) |
| 主な顧客 | ISS、NASA衛星 | Copernicus衛星、ISS Columbus |
EDRSの光通信端末(LCT:Laser Communication Terminal)はTesat-Spacecom社が開発し、1.8Gbpsの高速データ中継を実現している。
日本の光データ中継衛星
JAXAの光データ中継衛星「LUCAS」は2020年に打上げられ、先進レーダ衛星「だいち4号」などの大容量データ中継を担う。1.8Gbpsの光衛星間通信でデータを中継し、つくば局に送信する。
光通信によるデータ中継
電波から光へ
従来の電波によるデータ中継はKa帯で数百Mbps程度が限界だった。レーザー光通信はGbps級のデータレートを実現し、SAR衛星や高分解能光学衛星が生成する膨大なデータの中継に不可欠だ。
光通信の利点は帯域幅の広さだけでなく、周波数ライセンスが不要(電波と異なりITU調整不要)であることも大きい。
LEO-GEO光中継の課題
LEO衛星とGEO衛星間の光リンクは距離が約36,000〜45,000kmと長く、極めて細いビームを高精度で追尾する必要がある。大気の影響を受けないGEO-LEO間の宇宙空間での光通信は原理的には容易だが、衛星の姿勢じょう乱やビーム指向精度が課題だ。
次世代データ中継
LEOリレー
GEOデータ中継衛星に加え、LEOコンステレーションをデータ中継に活用する構想もある。Starlink衛星間の光衛星間リンクをデータ中継インフラとして他の衛星にも提供する可能性が議論されている。
月・深宇宙への拡張
アルテミス計画では月周辺でのデータ中継が必要となる。NASAのLunar GatewayとESAのMoonlight計画は月通信・測位の中継インフラを構築する。
技術的なポイント
基礎知識
- TDRS: NASAの追跡データ中継衛星。LEO衛星の通信可視時間を大幅に拡大
- EDRS: ESAのデータ中継衛星。光通信で1.8Gbpsのデータ中継を実現
- LCT: Laser Communication Terminal。レーザー光通信端末
- データ取得率: LEO衛星が生成したデータのうち地上に下ろせる割合。データ中継衛星で向上
応用例
- ISS: TDRSを通じて地上と常時通信。ライブ映像の配信にも使用
- Copernicus Sentinel: EDRSでSAR画像データをリアルタイムに中継。災害対応に活用
- だいち4号: JAXAのLUCASを経由して大容量SARデータを光中継
まとめ
データ中継衛星はLEO衛星の通信ボトルネックを解消する重要インフラだ。NASAのTDRSが電波中継のパイオニアであり、EDRSとLUCASが光通信による高速中継を実用化した。地球観測データの爆発的増大と月探査の拡大に伴い、データ中継の需要は今後さらに高まる。
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