振動・衝撃試験の実際|打上げ環境を地上で再現する

はじめに

ロケットの打上げは宇宙機にとって人生で最も過酷な数分間だ。エンジンの燃焼振動、音響環境、段間分離の衝撃——これらの力学環境を乗り越えなければ軌道上でミッションを開始できない。環境試験の中でも振動・衝撃試験は構造の健全性を検証する最重要プロセスだ。


打上げ環境の特性

振動環境の分類

打上げ時の振動環境は周波数帯域により分類される。

環境 周波数帯 発生源 支配的な影響
準静的加速度 DC〜5Hz エンジン推力 構造の強度
正弦波振動 5〜100Hz POGO振動、構造共振 搭載機器の共振
ランダム振動 20〜2000Hz エンジン振動、空力振動 電子部品の疲労
音響振動 20〜10000Hz エンジン排気音、空力騒音 大面積構造(太陽電池等)
衝撃 100〜10000Hz 段間分離、フェアリング分離 電子基板・光学素子

ロケットごとに環境条件は異なり、ユーザーズマニュアルで規定される。


振動試験

正弦波振動試験

正弦波振動試験は低周波帯(5〜100Hz)の共振応答を確認する試験だ。加振台(シェイカー)上に試験体を設置し、周波数を連続的に掃引(sweep)しながら加振する。

この試験で特に重要なのはノッチングの概念だ。試験体の共振点で過大な応答が発生する場合、加振入力を制限(ノッチ)して試験体を保護する。ノッチングの適切な設定は試験エンジニアの腕の見せ所だ。

ランダム振動試験

ランダム振動試験は打上げ時の広帯域振動を模擬する。入力はPSD(パワースペクトル密度)で定義され、単位はG²/Hzだ。全帯域のRMS値(Grms)が試験レベルの指標となる。

認定試験では受入試験の約2倍のPSDレベル(=√2倍のGrms)で、受入試験の2〜4倍の時間加振する。


衝撃試験

分離衝撃

フェアリング分離や衛星分離時に火工品(パイロテクニクス)が作動し、数千Gの高周波衝撃が発生する。衝撃応答スペクトル(SRS:Shock Response Spectrum)で規定される。

衝撃試験の実施方法には、実機分離試験、衝撃ハンマー試験、火工品模擬試験などがある。高周波衝撃は電子基板のはんだ接合部やリレーの接点に影響を及ぼす。


音響試験

残響室試験

大型衛星やフェアリングの音響環境試験には残響室が使用される。窒素ガス駆動のホーンスピーカーで130〜145dBの音圧を発生させ、打上げ時の音響環境を再現する。

JAXA筑波宇宙センターの大型音響試験設備は1,600m³の残響室を持ち、日本の主要衛星の音響試験を実施している。

直接音場試験

近年は、スピーカーを試験体の近傍に配置するDFAT(Direct Field Acoustic Testing)が普及している。残響室が不要なため、現場での試験が可能であり、小型衛星の試験に適している。


試験からのフィードバック

試験異常時の対応

振動試験中に共振応答が予測を大幅に超えた場合、構造の改修や補強が必要となることがある。試験は設計の妥当性を確認する「最後の砦」であり、ここで発見された問題はスケジュールとコストに大きな影響を与える。

FEMモデルと試験結果のコリレーション(相関確認)を通じて、構造モデルの精度を向上させ、次号機以降の設計にフィードバックする。


技術的なポイント

基礎知識

  • PSD: パワースペクトル密度。ランダム振動のレベルをG²/Hzで定義
  • SRS: 衝撃応答スペクトル。衝撃環境を周波数ごとのピーク応答で表現
  • ノッチング: 共振点で加振入力を制限し、試験体の過大応答を防ぐ手法
  • DFAT: Direct Field Acoustic Testing。残響室不要の音響試験手法

応用例

  • H3ロケットフェアリング: 大型音響試験で衛星搭載環境を検証
  • Starlink量産: 受入振動試験を効率化し量産に対応した試験プロセス
  • 超小型衛星: DFAT手法の普及により、大学レベルでも音響試験が実施可能に

まとめ

振動・衝撃試験は、宇宙機が打上げという最大の試練を乗り越えられることを地上で証明するプロセスだ。正弦波振動、ランダム振動、衝撃、音響の各試験で打上げ環境を再現し、構造設計の妥当性を検証する。試験結果はFEMモデルの精度向上にフィードバックされ、設計と試験の反復サイクルが宇宙機の信頼性を支えている。


参考文献

  • NASA, “GSFC-STD-7000B: General Environmental Verification Standard (GEVS)”, NASA, 2021. NASA
  • ECSS, “ECSS-E-ST-10-03C: Testing”, ESA, 2012. ECSS
  • Harris, C.M. and Piersol, A.G., “Harris’ Shock and Vibration Handbook”, McGraw-Hill, 2002. McGraw-Hill