はじめに
中国は21世紀に入り、世界第2位の宇宙大国としての地位を確立した。2023年の軌道打上げ回数は67回と米国に次ぐ世界2位であり、有人宇宙活動、月探査、火星探査、独自の宇宙ステーション運用を同時に進める能力を持つ。中国の宇宙開発は国家戦略として推進され、CNSA(中国国家航天局)とCASC(中国航天科技集団)が中核を担うが、近年は民間企業の参入も急拡大している。
天宮宇宙ステーション
構成と運用
天宮(Tiangong)宇宙ステーションは、2022年に完成した中国独自の有人宇宙ステーションだ。ISSの約1/4の規模(約100トン)だが、中国が単独で建設・運用する点で画期的である。
| モジュール | 打上げ年 | 質量 | 機能 |
|---|---|---|---|
| 天和(コアモジュール) | 2021年 | 22.5 t | 居住・制御・生命維持 |
| 問天(実験棟I) | 2022年 | 23 t | 科学実験・EVA |
| 夢天(実験棟II) | 2022年 | 23 t | 科学実験・貨物 |
3名の宇宙飛行士が常時滞在し、約6ヶ月ごとに交代する。ISSの運用が2030年頃に終了すれば、天宮は唯一の大型有人宇宙ステーションとなる可能性がある。
巡天宇宙望遠鏡
天宮と共軌道で飛行する巡天(Xuntian)宇宙望遠鏡は、口径2mの広視野望遠鏡で、ハッブルの300倍の視野を持つ。2025年打上げ予定で、必要に応じて天宮とドッキングしてメンテナンスが可能だ。宇宙望遠鏡の新世代として注目される。
月探査プログラム:嫦娥計画
サンプルリターンの成功
嫦娥(Chang’e)計画は中国の月探査プログラムであり、段階的に難度を上げてきた。
| ミッション | 年 | 成果 |
|---|---|---|
| 嫦娥1号 | 2007年 | 月周回、マッピング |
| 嫦娥3号 | 2013年 | 月面着陸(玉兎ローバー) |
| 嫦娥4号 | 2019年 | 史上初の月裏側着陸 |
| 嫦娥5号 | 2020年 | 月面サンプルリターン(1,731g) |
| 嫦娥6号 | 2024年 | 月裏側からのサンプルリターン(史上初) |
嫦娥6号の成功は特筆すべきだ。月の裏側は地球との直接通信ができないため、中継衛星鵲橋2号を月周回軌道に配置して通信を確保した。この高度な技術実証は、はやぶさ2のサンプルリターンに匹敵する成果と評価されている。
ILRS:国際月面研究ステーション
中国はロシアと共同でILRS(国際月面研究ステーション)の構築を計画している。2030年代に月面南極付近に基地を建設する構想で、嫦娥7号(2026年予定)と嫦娥8号(2028年予定)がその先遣ミッションとなる。これはNASAのアルテミス計画に対抗する月面プログラムと見なされている。
火星探査:天問計画
天問1号(Tianwen-1)は2021年に火星に到達し、周回機・着陸機・ローバー(祝融号)の3機一体ミッションを初回で成功させた。米国でさえ初の火星着陸(Viking 1、1976年)は周回と着陸を別ミッションで実施しており、中国の技術力の高さを示す。
祝融号は火星北部のユートピア平原で約1年間活動し、地表下に水氷の存在を示唆するデータを取得した。天問2号(2028年予定)は火星サンプルリターンを目指し、NASAのMSR計画が予算削減で遅延する中、中国が最初の火星サンプルリターンを達成する可能性がある。
長征ロケットファミリーと再利用への挑戦
現行ロケット
長征(Long March)ロケットファミリーは中国の主力打上げシステムだ。
| ロケット | LEO能力 | 推進剤 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 長征2号F | 8.6 t | N2O4/UDMH | 有人打上げ専用 |
| 長征5号 | 25 t | LOX/LH2 + LOX/ケロシン | 大型打上げ |
| 長征7号 | 13.5 t | LOX/ケロシン | 貨物輸送 |
| 長征11号 | 0.7 t | 固体 | 即応打上げ |
再利用ロケットの開発
中国はSpaceXの再利用ロケットに触発され、複数の再利用ロケット計画を進めている。長征10号はGRID FINとランディングレグによるFalcon 9型の垂直着陸を目指す。さらに、CASCの次世代有人ロケットはStarship類似の完全再使用を構想している。
民間ロケット企業
中国の民間宇宙企業も急成長している。
- LandSpace(藍箭航天): 朱雀2号でメタン燃料ロケットの軌道投入に成功
- Galactic Energy(星河動力): 穀神星1号で小型ロケット打上げ成功
- Space Pioneer(天兵科技): 天龍2号でケロシンロケットの商業打上げ
- Deep Blue Aerospace: Falcon 9型の垂直着陸回収試験を実施
千帆コンステレーション
中国は千帆(Qianfan)プロジェクトとして、約1万4,000基の衛星コンステレーションを計画している。これはStarlinkに対抗する中国版衛星インターネットであり、上海垣信衛星科技(GW Satellite Technology)が開発を主導する。2024年に最初の実験衛星が打ち上げられ、メガコンステレーションのグローバル競争が加速している。
技術的なポイント
基礎知識
- CNSA: 中国国家航天局。中国の宇宙活動を統括する政府機関
- CASC: 中国航天科技集団。ロケット・衛星の主要製造企業群
- ILRS: 国際月面研究ステーション。中国・ロシア主導の月面基地構想
- 千帆: 中国版Starlinkコンステレーション。LEO衛星約14,000基を計画
応用例
- 天宮ステーション: 中国独自の有人宇宙ステーション。ISS後の唯一の大型ステーションとなる可能性
- 嫦娥6号: 月裏側からの世界初のサンプルリターン。中継衛星鵲橋2号との連携
- 朱雀2号: 世界初のメタン燃料ロケットでの軌道投入成功
まとめ
中国の宇宙開発は国家戦略としての一貫性と急速な技術向上が特徴だ。天宮ステーション、嫦娥月探査、天問火星探査を同時並行で進め、民間企業の参入による宇宙スタートアップ・エコシステムの形成も加速している。ISSの退役後、千帆コンステレーションの展開、火星サンプルリターンの達成次第では、中国が宇宙開発のリーダーシップを握る局面もあり得る。
参考文献
- CNSA, “China’s Space Activities in 2022”, State Council Information Office, 2022. CNSA
- Jones, A., “China’s Growing Ambitions in Space”, The Planetary Society, 2024. Planetary Society
- SpaceNews, “China’s commercial space sector”, SpaceNews, 2024. SpaceNews
- Pollpeter, K. et al., “China’s Space Narrative”, China Aerospace Studies Institute, 2023. CASI
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