衛星の電力システム設計|太陽電池からバッテリーまで

はじめに

電力システム(EPS: Electrical Power System)は衛星の生命線だ。太陽電池で発電し、バッテリーに蓄電し、各サブシステムに配電するという基本構造は数十年変わらないが、太陽電池セルの効率向上とバッテリー技術の進化により、限られた衛星体積の中でより多くの電力を供給できるようになっている。電力が不足すればミッションは成立しない。本記事では、衛星電力システムの構成要素と設計のポイントを解説する。


太陽電池

セル技術の進化

宇宙用太陽電池は単接合シリコン(Si)から三接合化合物半導体(InGaP/GaAs/Ge)へと進化してきた。最新の三接合セルは変換効率30%以上を実現し、さらにInGaP/GaAs/InGaAsNSb/Geの四接合セルが35%超の効率を達成している。

セル種類 効率(BOL) 質量(W/kg) コスト 用途
単接合Si 16〜18% 50〜80 CubeSat(低コスト)
三接合(InGaP/GaAs/Ge) 30〜32% 130〜170 商用・政府衛星
四接合 33〜36% 150〜200 非常に高 高性能GEO衛星

BOL(Beginning of Life)は打上げ直後の初期効率で、EOL(End of Life)は放射線劣化後のミッション末期効率だ。LEOで5年運用する場合、太陽電池の出力はBOLから10〜15%低下する。GEOでは放射線環境がより厳しく、15年で20〜30%低下する。

展開型太陽電池パネル

CubeSatでは機体側面に固定した太陽電池で数W〜10W程度しか得られないが、展開型パネルを使えば30〜100Wを確保できる。大型GEO通信衛星では翼幅30m以上の巨大な太陽電池パドルを展開し、15〜25 kWの電力を供給する。


バッテリー

リチウムイオン電池の採用

衛星が地球の影(Eclipse)に入る間は太陽電池が使えないため、バッテリーから電力を供給する。LEOでは約90分の軌道周期のうち最大35分がEclipseとなる。

現代の衛星バッテリーはリチウムイオン電池(Li-ion)が主流だ。以前使われていたニッケル水素(NiH₂)電池に比べ、Li-ionはエネルギー密度が2〜3倍で、衛星の質量・体積バジェットに大きく貢献する。

電池種類 エネルギー密度 サイクル寿命 用途
NiH₂ 40〜60 Wh/kg 50,000回以上 レガシーGEO衛星
Li-ion(LEO用) 130〜180 Wh/kg 30,000〜60,000回 LEO衛星
Li-ion(GEO用) 150〜200 Wh/kg 1,000〜2,000回 GEO衛星

LEO衛星はEclipse周期が短く頻繁なため1日約15回の充放電サイクルが発生し、5年間で約27,000サイクルに達する。DOD(放電深度)を浅く設定(20〜30%)することで長寿命を確保する。


電力制御と配電

PCDU(電力制御・配電ユニット)

PCDUは太陽電池からの電力を制御し、バッテリーの充放電を管理し、各サブシステムに配電する中枢装置だ。主な機能は以下の通り。

  • MPPT(最大電力点追従): 太陽電池の動作点を最大電力点に維持する制御
  • 充放電制御: バッテリーの過充電・過放電を防止
  • バスレギュレーション: 衛星内の電力バス電圧を一定に維持(28V, 50V, 100V等)
  • 過電流保護・スイッチング: 各ペイロードへの配電と保護

電力バジェットの設計

衛星の電力バジェットは、各サブシステムの消費電力を積み上げ、太陽電池の発電量とバッテリー容量でバランスを取る設計書だ。マージンは通常10〜20%確保される。Eclipse中はミッションに応じてペイロードの一部を休止させ、電力消費を削減するケースも多い。


技術的なポイント

基礎知識

  • BOL/EOL: 太陽電池の初期性能(Beginning of Life)と劣化後の末期性能(End of Life)
  • DOD(放電深度): バッテリーの全容量に対する放電量の比率。浅いほど長寿命
  • Eclipse: 衛星が地球の影に入り太陽光が遮られる期間
  • MPPT: 太陽電池の電流-電圧特性上で最大電力を取り出す制御技術

応用例

  • Starlink衛星: 展開型太陽電池パネル + Li-ionバッテリー。電気推進の電力も供給
  • JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡): 太陽シールド背面に固定太陽電池。L2ラグランジュ点でEclipseなし
  • 6U CubeSat: 展開パネルで最大30W。衛星搭載AIの電力制約の主因

まとめ

衛星の電力システムは、太陽電池の効率・バッテリーのエネルギー密度・PCDUの制御精度の三要素で性能が決まる。三接合/四接合化合物半導体セルの採用とLi-ionバッテリーの高性能化により、同じ衛星体積でより大きな電力バジェットが確保できるようになった。電力はADCS、通信、AIプロセッサ電気推進すべてを支える根幹であり、電力システム設計はミッション設計そのものだ。


参考文献

  • Patel, M.R., “Spacecraft Power Systems”, CRC Press, 2004. CRC Press
  • Spectrolab, “Space Solar Cells”, Boeing/Spectrolab. Spectrolab
  • JAXA, “衛星の電力系”, JAXA公式サイト. JAXA