はじめに
はやぶさ2はJAXAが開発した小惑星探査機で、C型小惑星リュウグウ(162173 Ryugu)からのサンプルリターンに成功した。2014年の打上げから2020年のカプセル帰還まで約6年の旅で、2回のタッチダウン、人工クレーター生成、複数のローバー投下を成功させた。回収されたサンプルからは地球外のアミノ酸が検出され、生命の起源に迫る成果を挙げた。
ミッション概要
タイムライン
| 時期 | イベント |
|---|---|
| 2014年12月 | H-IIAロケットで打上げ |
| 2015年12月 | 地球スイングバイ |
| 2018年6月 | リュウグウ到着(高度約20km) |
| 2019年2月 | 第1回タッチダウン(サンプル採取) |
| 2019年4月 | SCI(衝突装置)で人工クレーター生成 |
| 2019年7月 | 第2回タッチダウン(地下サンプル採取) |
| 2019年11月 | リュウグウ出発 |
| 2020年12月 | カプセル地球帰還(オーストラリア着陸) |
技術的特徴
はやぶさ2は初代はやぶさの経験を活かし、以下の改良が施された。
- イオンエンジン(μ10): 4基搭載。イオンエンジンの比推力3,000秒以上で長距離航行
- 自律航法: 小惑星到着後は通信遅延(片道約16分)のため、自律でのホバリングと降下が必須
- サンプリング装置: 弾丸(タンタル製5g)を打ち込み、飛散した試料を回収するタッチアンドゴー方式
- SCI(Small Carry-on Impactor): 2kgの銅板を爆薬で小惑星表面に衝突させ、人工クレーターを生成
科学的成果
リュウグウの素顔
リュウグウは直径約900mのコマ型(ダイヤモンド型)小惑星で、表面は大小の岩塊で覆われたラブルパイル天体だった。平坦な着陸地点がほとんどなく、タッチダウン地点の選定は困難を極めた。
アミノ酸の発見
回収されたサンプル(約5.4g)の分析で、23種類のアミノ酸が検出された。これは地球外天体からのサンプルで初めて確認された大きな成果であり、地球生命の材料が太陽系形成初期の小惑星に存在していたことを示唆する。
また、サンプルには水を含む鉱物(含水鉱物)が豊富に含まれており、太陽系初期の水環境の記録が保存されていた。
拡張ミッション
小惑星1998 KY26へ
カプセル投下後のはやぶさ2本体は新たな目標天体に向かっている。2031年に直径約30mの高速自転小惑星1998 KY26に到達する予定だ。この超小型天体へのランデブーは世界初の試みとなる。
技術的なポイント
基礎知識
- C型小惑星: 炭素質コンドライトに類似する組成。含水鉱物と有機物が豊富
- ラブルパイル: 岩塊が重力で緩く集合した構造の天体。内部は空隙が多い
- タッチアンドゴー: 短時間の接地でサンプルを採取し即座に上昇する方式
- SCI: 爆薬で銅板を加速して小惑星表面に衝突させ、地下物質を露出させる装置
応用例
- はやぶさ(初代): S型小惑星イトカワからの世界初サンプルリターン(2010年)
- OSIRIS-REx(NASA): B型小惑星ベンヌからのサンプルリターン(2023年帰還)
- DART/Hera: 小惑星偏向実験。はやぶさ2の衝突装置技術と関連
まとめ
はやぶさ2は、自律航法・精密タッチダウン・人工クレーター生成・サンプルリターンという一連の高難度技術を完遂し、太陽系科学に画期的な成果をもたらした。リュウグウの試料から検出されたアミノ酸と含水鉱物は、生命の起源と太陽系の水の歴史を解き明かす鍵だ。イオンエンジンによる長距離航行と、スイングバイ航法を組み合わせた軌道設計は、日本の深宇宙探査技術の高さを世界に証明した。
参考文献
- JAXA, “はやぶさ2プロジェクト”, JAXA公式サイト. JAXA はやぶさ2
- Tachibana, S. et al., “Pebbles and Sand on Asteroid (162173) Ryugu”, Science, vol.375, 2022. Science
- Yokoyama, T. et al., “Samples Returned from the Asteroid Ryugu Are Similar to Ivuna-type Carbonaceous Meteorites”, Science, vol.379, 2023. Science
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