はじめに
軌道上サービシング(OOS: On-Orbit Servicing)は、軌道上の衛星に対して修理、燃料補給、軌道変更、モジュール交換などのサービスを提供する技術だ。従来の「打上げたら手が届かない」衛星運用の常識を覆し、衛星の寿命延長と機能向上を実現する。Northrop GrummanのMEVシリーズが商用衛星の延命サービスを初めて実用化し、OOS市場が本格的に立ち上がりつつある。
OOSの技術領域
サービスの種類
| サービス | 内容 | 技術成熟度 |
|---|---|---|
| 軌道延命(Life Extension) | ドッキングして推進力を提供 | 実用化(MEV) |
| 燃料補給 | 推進剤を軌道上で補充 | 実証段階 |
| 検査・診断 | 近接観測で衛星の状態を評価 | 実用化 |
| 修理・部品交換 | ロボットアームで故障部品を交換 | 研究・実証段階 |
| 軌道変更 | 不要衛星を墓場軌道へ移動 | 実用化(MEV) |
| 軌道上組立 | 大型構造物を軌道上で組み立て | 研究段階 |
MEV(Mission Extension Vehicle)
Northrop GrummanのMEV-1は2020年にIntelsat-901(GEO通信衛星)にドッキングし、燃料切れの衛星に代わって推進力と姿勢制御を提供して約5年の寿命延長を実現した。MEV-2も2021年にIntelsat-10-02に同様のサービスを提供している。
MEVは衛星のアポジモーターノズルに嵌合してドッキングする方式で、対象衛星側の改修は不要だ。
RPO(ランデブー・近接運用)
OOSの核心技術
OOSの基盤はRPO(Rendezvous and Proximity Operations)、すなわちサービス衛星がクライアント衛星に安全に接近・ドッキングする技術だ。相対航法・姿勢推定・接近制御の一連の工程が必要であり、自律ランデブー航法技術と密接に関連する。
非協力ターゲット(通信不能な廃衛星やデブリ)へのRPOは、スペースデブリ除去と共通する技術課題であり、ビジョンベースの相対航法とAIによる姿勢推定が研究されている。
燃料補給と組立
軌道上燃料補給
NASAのOSAM-1(On-orbit Servicing, Assembly, and Manufacturing 1)は、Landsat-7に自律でランデブーし、燃料補給を行う実証ミッションとして計画されていた。予算超過で中止されたが、軌道上燃料補給の技術実証は他のプログラムで継続されている。
軌道上組立(OOA)
将来的には、地上で完成品として打上げるのではなく、軌道上で大型構造物を組み立てることが検討されている。大型宇宙望遠鏡、太陽電力衛星、深宇宙探査船などの構造物は、単一ロケットのフェアリングに収まらないため、軌道上組立が必要になる。
技術的なポイント
基礎知識
- RPO: ランデブー・近接運用。宇宙機が別の宇宙機に安全に接近・ドッキングする技術
- 非協力ターゲット: 通信不能・回転状態などの対象。RPOの難度が高い
- MEV: Northrop Grummanの衛星延命サービス機。GEO衛星にドッキングして推進力を提供
- 軌道上組立: 複数のコンポーネントを軌道上で結合して大型構造物を構築する技術
応用例
- MEV-1/2: GEO衛星の延命サービスを世界初で商用実現(2020/2021年)
- Hubble宇宙望遠鏡修理: スペースシャトルによるOOSの先駆け(1993〜2009年)
- Astroscale ELSA-d: デブリ除去向けRPO技術の実証
まとめ
軌道上サービシングは、衛星を使い捨てから持続利用に変えるパラダイムシフトだ。MEVのGEO衛星延命サービスが商用化され、燃料補給・ロボット修理・軌道上組立が次の段階として開発が進んでいる。RPO技術の成熟はスペースデブリ除去とOOS双方の基盤であり、自律航法AIの発展がこの分野の加速要因となっている。
参考文献
- Northrop Grumman, “Mission Extension Vehicle”, Northrop Grumman Official Site. Northrop Grumman
- NASA, “On-orbit Servicing, Assembly, and Manufacturing”, NASA Official Site. NASA OSAM
- Flores-Abad, A. et al., “A Review of Space Robotics Technologies for On-Orbit Servicing”, Progress in Aerospace Sciences, vol.68, 2014. Elsevier