はじめに
Blue Origin New Glennは、Jeff Bezos率いるBlue Originが開発した大型再使用ロケットであり、第1段の船上着陸による回収を目指している。2025年1月のNG-1ミッションで初飛行を達成し、ペイロードの軌道投入に成功した(第1段の回収は初号機では達成されなかった)。
New Glennは7m径の大型フェアリングと高い軌道投入能力を特徴とし、GNC技術においてはFalcon 9で確立された手法を踏襲しつつ、独自の技術的差別化を図っている。本記事ではNew GlennのGNCアーキテクチャと技術的特徴を解析する。
機体概要
| パラメータ | 値 |
|---|---|
| 全長 | 約98m(2段構成) |
| 直径 | 7m |
| 第1段エンジン | BE-4 × 7基 |
| 第2段エンジン | BE-3U × 2基(LOX/LH₂) |
| LEO投入能力 | 約45トン |
| GTO投入能力 | 約13トン |
| 第1段回収 | 船上着陸(ドローンシップ) |
BE-4エンジン
New Glennの第1段推進はBE-4エンジン7基で行われる。
| パラメータ | 値 |
|---|---|
| 推進剤 | LOX/LNG(液化天然ガス) |
| サイクル | 酸素リッチ段間燃焼 |
| 海面推力 | 約2,400 kN/基 |
| 合計推力 | 約16,800 kN(7基) |
| スロットル範囲 | 推定 30〜100% |
| ジンバル角 | 推定 ±8° |
酸素リッチ段間燃焼サイクルは高い比推力と効率を提供し、LNG推進剤は煤が少なくエンジンの再使用性に有利だ。
上昇フェーズのGNC
誘導アルゴリズム
New Glennの上昇誘導は、ペイロードの軌道投入と第1段の帰還推進剤確保を同時に最適化する必要がある。
第1段はMECO(Main Engine Cut-Off)時点で着陸に十分な推進剤を残す必要があり、この制約が上昇軌道設計に影響する。MECO高度・速度・飛行経路角は、ペイロード質量とミッション軌道に応じて最適化される。
制御系
7基のBE-4エンジンの協調TVC制御は、Falcon 9(9基Merlin)と類似した推力配分問題を解く。7基のうち中央の1基はジンバル能力を持ち、外側6基もジンバル制御されると推測される。
第1段帰還のGNC
帰還プロファイル
New Glennの第1段帰還は、Falcon 9のASDS着船と概念的に類似している。
| フェーズ | 内容 |
|---|---|
| 段分離 | 高度約60〜80km |
| フリップマヌーバ | 180°姿勢反転 |
| ブーストバック(オプション) | 近距離ミッション時 |
| 大気圏内降下 | フィン/空力制御 |
| 再突入バーン | 速度低減 |
| 着陸バーン | 最終減速・船上着陸 |
空力制御面
New Glennの第1段には、再突入・降下フェーズの空力制御のためのフィンが搭載されている。公開画像からは、機体上部に配置された大型のフィン(グリッドフィンまたは固定フィン)が確認できる。
Falcon 9が4枚のチタン製グリッドフィンを使用しているのに対し、New Glennは7m径という大きな機体に合わせた大型の空力制御面を採用している。大型機体は空力的な安定性が異なるため、フィンの設計も異なるアプローチが取られている可能性がある。
船上着陸
New Glennの着陸船はJacklynと命名された大型のドローンシップだ。
| パラメータ | Falcon 9 ASDS | New Glenn Jacklyn |
|---|---|---|
| 船体サイズ | 約90m × 50m | 推定 約100m × 60m以上 |
| 着陸パッド直径 | 約50m | より大型 |
| 位置保持 | DP(動的位置保持) | DP(動的位置保持) |
| 展開海域 | 大西洋 | 大西洋 |
船上着陸のGNCは、Falcon 9の実績を参考にしつつ、より大型・重量の機体に対応した着陸誘導が必要となる。第1段の乾燥重量はFalcon 9よりも大きいと推測され、着陸バーンの推力制御がより精密に行われる必要がある。
New Shepardでの技術蓄積
サブオービタル機でのGNC実証
Blue Originは、サブオービタル機New Shepardで再使用ロケットのGNC技術を蓄積してきた。New Shepardは2015年11月に世界初の軌道未満ロケットの垂直着陸に成功している(Falcon 9の軌道級着陸は2015年12月)。
New ShepardのGNC技術資産: – BE-3エンジンのディープスロットル制御(推定20%まで) – GPS/INS統合航法 – 着陸誘導アルゴリズム – 繰り返し飛行による信頼性実証
New Shepardでの25回以上の飛行実績は、New Glennの着陸GNC開発の基盤となっている。ただし、New Shepardは弾道飛行で最大速度マッハ3程度であり、軌道速度からの帰還を伴うNew Glennとは技術的な難易度が大きく異なる。
Falcon 9との比較
| 技術要素 | Falcon 9 | New Glenn |
|---|---|---|
| 第1段エンジン | Merlin 1D × 9(GGサイクル) | BE-4 × 7(段間燃焼) |
| 推進剤 | LOX/RP-1 | LOX/LNG |
| 機体直径 | 3.7m | 7m |
| 着陸方式 | 陸上/ASDS | 船上(Jacklyn) |
| 空力制御 | チタングリッドフィン | 大型フィン |
| 着陸実績 | 200+回 | 開発中 |
| スロットル範囲 | 40〜100% | 推定30〜100% |
技術的差別化
New Glennが技術的に差別化を図る点は以下と推測される。
BE-4の高性能 酸素リッチ段間燃焼サイクルにより、GGサイクルのMerlinより比推力が高い。LNG推進剤は煤が少なくエンジンの再使用整備が容易になる可能性がある。
大型フェアリング 7m径のフェアリングは商業衛星市場で大きなアドバンテージとなり、複数衛星の同時打上げやラージサットの搭載に適している。
第2段のLOX/LH₂ BE-3Uエンジンによる高比推力の上段は、GTO・月遷移軌道などの高エネルギーミッションで性能的に有利だ。
開発状況と課題
NG-1ミッション(2025年1月)
New Glennの初飛行であるNG-1は2025年1月に実施された。Blue Origin初の軌道投入成功という歴史的なマイルストーンを達成したが、第1段の回収は成功しなかった。
GNC関連の初飛行データは、以下の点で貴重な情報を提供する。 – BE-4エンジンの飛行中の推力プロファイルと制御応答 – 上昇フェーズの姿勢制御性能 – 段分離のダイナミクス – 第1段帰還フェーズの空力特性データ
今後の技術課題
- 第1段回収の達成:2回目以降の飛行での着陸成功が最優先課題
- 再使用整備の確立:BE-4エンジンの飛行後整備プロセスの最適化
- 打上げ頻度の向上:ケープカナベラルLC-36からの運用確立
- 第2段再使用の検討:将来的な完全再使用への道筋
まとめ
New GlennはFalcon 9に続く軌道級再使用ロケットとして、BE-4エンジンの高性能とLNG推進剤の利点を活かしたGNCシステムを構築している。New Shepardでの技術蓄積とFalcon 9の公開実績を参考にしつつ、7m径の大型機体に最適化された制御系が設計されている。
初飛行での軌道投入成功は大きな一歩であり、今後の第1段回収成功と打上げ頻度の向上がNew Glennの商業的成功の鍵となるだろう。再使用ロケット市場における競争は、GNC技術の継続的革新を促進する原動力となっている。